第 17 回(2023 年) 日本物理学会若手奨励賞受賞者を決定しました。


有賀 智子氏 (九州大学 基幹教育院)
野辺 拓也氏 (東京大学 素粒子物理国際研究センター)
南 雄人氏 (大阪大学 核物理研究センター)

の3名を選考しました。
受賞されたお三方に、心よりお祝いを申し上げます。            


受賞論文の講評

有賀 智子氏 (九州大学 基幹教育院)
"First neutrino interaction candidates at the LHC"
Phys. Rev. D 104, L091101 (2021)

 本論文のもととなる実験は、LHCの新規の測定器として提案されていたFASERν検出器のパイロット・ランとして、2018年に実施されたものである。LHC加速器のATLAS衝突点から480 m離れた地点にエマルジョン測定器を設置し、衝突型加速器におけるTeV領域のニュートリノ反応の初めての観測に挑んだ。パイロット・ランという本実験の性格上、実機で設置される予定のミューオン識別装置を欠いていたため、ニュートリノ反応と中性ハドロンバックグランドとの区別が簡単ではない。申請者は反応点でのトラックの本数や終状態の形状の差に基づいた多変量解析の手法を導入し、2. 7σの優位性でニュートリノ反応の同定に成功した。実験結果はFASER+FASERν実験の2019年の承認に重要な役割を果たした。論文ではその手法が要領よくまとめられている。申請者は、この実験の計画と解析に果たした役割と、FASERν計画初期からの貢献が認められて、現在FASERν実験の共同スポークスパーソンを務めている。FASERν実験では3世代のニュートリノ信号を同時に測る実験が将来可能になると期待されている。以上より、ニュートリノ実験の新しい可能性を開いた実験の論文として、本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断した。

野辺 拓也氏 (東京大学 素粒子物理国際研究センター)
"Search for charginos and neutralinos in final states with two boosted hadronically decaying bosons and missing transverse momentum in pp collisions at √s = 13 TeV with the ATLAS detector"
Phys. Rev. D 104, 112010 (2021)

 超対称粒子のうち,電弱ゲージボソンとヒッグスのパートナーであるチャージノ・ニュートラリノは強い相互作用をしないため,LHCからの既存の制限は比較的ゆるい状況である。これらチャージノ・ニュートラリノの質量スペクトルは,U(1) ゲージノ,SU(2) ゲージノ,ヒッグシーノをそれぞれ主成分とするグループに分かれ,それらグループの間でカスケード的に崩壊が起こる。本論文では,チャージノ・ニュートラリノのうち,より重いものが対生成され,軽いものと W, Z, H ボソンに崩壊する過程を総合的に探索した。高い運動量を持つ W, Z, H の崩壊においては,最大の分岐比をもつクォーク対は,サブジェット構造のあるハドロンジェットに転化する。申請者は「ブーストされたボソンタギング」の手法を発展させてこれを効率的に検出することを可能にし,ATLAS の LHC Run 2 のデータに適用して,従来レプトン終状態を用いて得られていた制限を劇的に改善する制限を得た論文では,多くの場合分けを必要とするこの解析がよく整理されてまとめられている。申請者はこの解析で主要な役割を果たし,当該年の ATLAS の新物理探索における重要な成果の一つとなった。以上より,本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断した。


南 雄人氏 (大阪大学 核物理研究センター)
"New Extraction of the Cosmic Birefringence from the Planck 2018 Polarization Data"
Phys. Rev. Lett. 125, 221301 (2020)

 宇宙マイクロ波背景放射が生まれてから我々に届くまでに,時間変化する擬スカラー場の存在する空間を通過すると,電磁場との相互作用により偏光面が回転することが知られている(宇宙複屈折)。この現象に由来する偏光面回転角の観測は標準模型を超える物理の存在を示唆する。過去にもその観測結果が多数報告されてきたが、観測装置の角度較正に伴う系統誤差のために上限値のみが与えられていた。本論文では、これを天の川銀河で観測される偏光面回転を用いて較正するという著者らが独自に開発した方法をPlanck衛星の観測データに適用し、誤差を大幅に低減させ有限値を示唆する結論を得たことが記述されている。前景からの影響など、さらに詳細を検討する必要性はあるものの、今後につながる大きな進展であるといえよう。以上より,本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断した。


2022年10月18日
第 17 回(2023 年)日本物理学会若手奨励賞選考委員会
赤井和憲、佐川宏行、笹尾登、日笠健一、手嶋政廣、林井久樹、山中卓
事務局
三部勉

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