第 21 回(2027 年) 日本物理学会若手奨励賞受賞者を決定しました。
齋藤 智之氏
上岡 修星氏
桐田 勇利氏
の三名を選考しました。
受賞されたお三方に、心よりお祝いを申し上げます。
受賞論文の講評
齋藤 智之氏
"The ATLAS trigger system for LHC Run 3 and trigger performance in 2022"
JINST 19, P06029 (2024)
本論文は、CERNのラージハドロンコライダー加速器(LHC)のRun 3運転
(2022-2026年)開始に合わせて刷新されたATLAS実験トリガーシステムの設計・実装と、2022年の運転における性能を報告した論文である。高輝度・高パイルアップ環境下においても高い選択性能と安定したデータ収集を実現し、ATLAS 実験の Run 3 物理解析の基盤を確立した。本論文では、そのシステム構築と性能評価を包括的に記述している。齋藤氏は、その中でも初段ミューオントリガーシステムのアップグレードの責任者として、ハードウェアおよびトリガーアルゴリズムの開発・統合・導入を主導し、40名程度で構成される研究者を統率してプロジェクトを完遂した。また、齋藤氏は実験現場の責任者として、コミッショニングおよびデータ収集を指揮し、LHC Run 3の開始直後から物理データ取得への安定したトリガー供給を実現した。このことは、ATLAS実験のRun3データからの豊富な物理解析成果を生み出すことに大きく貢献した。このように、齋藤氏は大型国際共同実験の中で本質的な貢献を成し遂げたと言える。
以上の理由から、本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断する。
上岡 修星氏
"Acceleration of Positive Muons by a Radio-Frequency Cavity"
Phys. Rev. Lett. 134, 245001 (2025)
本論文は、J-PARC MLFにおいて、正ミューオンビームを冷却した後、RFQを用いて加速し、100倍以上のエミッタンス改善を行い、世界初となる正ミューオンの高周波加速を実証したものであり、ミューオンg-2/EDM実験等の将来の加速ミューオン実験の基盤となる極めて重要な成果である。上岡氏は約50名からなる共同研究において、実験計画の策定からビームタイム中の指揮、データ解析の統括まで研究全体を主導した。特に、加速の成否を握るミューオニウムのレーザーイオン化によるミューオン冷却においては、シミュレーションの構築や現場でのレーザー調整を主導し、冷却ミューオンの安定生成を実現した。また、PRL Editors' Suggestion等に選定された本論文において、責任著者として不可欠な貢献を果たしている。
以上より、本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断した。
桐田 勇利氏
"Search for sub-eV axion-like particles in a quasi-parallel stimulated resonant photon-photon collider with “coronagraphy"
JHEP 06, 138 (2025)
本論文は、準平行配置の誘導共鳴光子・光子衝突によりsub-eV質量領域のアクシオン様粒子(ALP)を探索した成果である。桐田氏は、2022年に発表した先行実験を発展させ、レーザー高強度化に伴い顕在化した光学素子起源の背景光の低減に取り組んだ。背景光と信号光の出射角分布の違いに着目し、コロナグラフの原理を応用した中心遮光フィルターを考案・導入することで、背景光の大幅低減に成功した。さらに、生成・誘導レーザーの集光点をずらす検証法を考案し、残存光が背景光に由来することを示した。その結果、ALP–光子結合定数の上限を先行実験から約20倍改善し、擬スカラー型ALPの0.15eV付近で、宇宙論・天体物理モデルに依存しない実験室探索として、発表時点で世界最高感度を達成した。本論文の中核をなす背景光低減手法の考案と実装、光学系・検出系の再構築と調整、データ取得・解析、系統誤差評価、探索感度導出は、桐田氏が学位取得後に主導したものである。代表的なQCDアクシオン模型の予測領域への到達にはなお数桁の感度向上を要するが、本手法は今後のレーザー高強度化による感度向上に不可欠な基盤となる。
以上の理由から、本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断する。
第 21 回(2027 年)日本物理学会若手奨励賞選考委員会
藏重久弥(委員長)、岩下芳久、窪秀利、久世正弘、受川史彦、川崎雅裕
事務局
佐藤修
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