第 22 回(2020 年度) 高エネルギー物理学奨励賞受賞者を決定しました。


芦田 洋輔氏 (京都大学)
新田 龍海氏 (早稲田大学)
斎藤 真彦氏 (東京大学)

の3名を選考しました。
( )内は論文発表時の所属。
受賞されたお三方に、心よりお祝いを申し上げます。            


受賞論文の講評

芦田 洋輔氏 (京都大学)
Measurement of Neutrino and Antineutrino Neutral-Current Quasielastic-like Interactions and Applications to Supernova Relic Neutrino Searches

 本応募論文は、超新星爆発で作られ、宇宙に残っている反電子ニュートリノを、Super-Kamiokande実験で探索した結果をまとめたものである。信号は超新星爆発起源の反電子ニュートリノが陽子と反応して陽電子と中性子を出す反応である。この探索で主な背景事象となるのは、大気ニュートリノが酸素原子核中の中性子と中性カレント準弾性散乱を起こし、ガンマ線と中性子を出す事象であるが、その断面積に大きな不定性があったため、T2K 実験のビームを用いてその散乱断面積を正確に測定した。さらに、中性子と酸素原子核とが反応して出るガンマ線のエネルギーや強度がよく理解されていなかったため、別途中性子ビームを用いた実験をRCNP にて行い、それらを測定した。これらの結果をもとに、背景事象を正確に見積もり、超新星爆発起源の13.3 MeV 以上の反電子ニュートリノに対し、世界一の制限を与えた。このように、単に探索するだけではなく、探索で問題となる量をニュートリノビームや中性子ビームを用いて測定した点を高く評価する。一人前の研究者としての研究に対する姿勢が感じられる。また、論文は道筋を立てて整理され、分野外の人に対してもわかりやすく書かれており、模範的な博士論文である。

新田 龍海氏 (早稲田大学)
Search for the weak vector boson scattering in semileptonic final states in pp collisions at √s = 13 TeV with the ATLAS detector

 弱ゲージボソン散乱は,その高エネルギーにおけるふるまいが電弱対称性の破れと直接関連するという意味で重要な物理過程であり,ヒッグス場まで含んだ素粒子標準模型の最終的な検証を与えるものである。LHC においては,この過程は2 つの弱ゲージボソンと2 つのジェットを含んだ事象によって調べることができる。本応募論文ではこの過程を,弱ゲージボソンの片方がレプトンに,もう一方がハドロンに崩壊する終状態を用いて探索した。特に,弱ゲージボソンがハドロン崩壊する際に生じる内部構造をもつジェット(Large R jet)のエネルギー較正,また機械学習(BDT)を用いたジェットの同定の開発を行ったことは特筆でき,これによりRun II の2 年間のデータから,信号事象を3σ弱で検出することに成功した。この結果は,弱ゲージボソンが両方ともレプトン崩壊する終状態を用いた結果に統計精度は譲っているものの,次元8 の有効相互作用(異常4 点結合)に対しては,従来のものより桁違いに強い制限を得ている。独創性があり,レベルの高い博士論文である。


斎藤 真彦
(東京大学)
Search for direct Chargino production based on a disappearing-track signature at √s = 13 TeV with the ATLAS detector

 斎藤真彦氏はATLAS 検出器で取得された重心系衝突エネルギー13TeV のデータを解析し、超対称性理論(SUSY)から予想されるチャージーノが長寿命の場合について,かつてない感度で探索した。近年、SUSY 粒子の質量に対する制限が強くなっている。暗黒物質粒子と目されるウィーノまたはヒッグシーノだけが他のSUSY 粒子よりも十分軽い場合には,チャージーノとニュートラリノとの質量差が小さく、チャージーノの崩壊寿命が長い。チャージーノはニュートラリノとパイ中間子やレプトンに崩壊するが、寿命が長いチャージーノは飛跡検出器中を1~10cm オーダーの距離走った後、飛跡が消失する事象としてみえることが予想される。このような事象はSUSY の決定的な証拠となるため、非常に興味深い探索である。以前から消失飛跡を使った探索は行われていたが、ATLAS 検出器のピクセル検出器とSCT (semiconductor tracker) 検出器の両方でのヒットを要求していたため、30cm 以上の飛跡が必要であり、探索感度が低かった。斎藤氏はピクセル検出器の4 点だけのセンサー反応点から再構成された飛跡を利用することによって短い消失飛跡の解析を可能とし、感度の高い探索をおこなった。チャージーノの崩壊にともなう有意な消失飛跡事象は検出されなかったが、こうしたチャージーノの質量に対してウィーノへの崩壊の場合490 GeV、ヒッグシーノへの崩壊の場合170 GeVの下限値を与え、モデルに強い制限を与えた。論文は、消失飛跡の構成、事象選択、背景事象、解析結果などについて丁寧に記述されており、全体として良くまとまっている。


2020年9月27日
第 22 回(2020 年度)高エネルギー物理学奨励賞選考委員会
赤井和憲、末包文彦、中畑雅行、野崎光昭、林井久樹、日笠健一、山中卓
事務局
飯田崇史

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