第 24 回(2022 年度) 高エネルギー物理学奨励賞受賞者を決定しました。


Lukas Berns氏 (発表時 : 東京工業大学, 現所属 : 東北大学)
稲田 知大氏 (発表時 : 東京大学, 現所属 : 清華大学)
篠原 智史氏 (発表時 : 京都大学, 現所属 : KEK加速器)

の3名を選考しました。
受賞されたお三方に、心よりお祝いを申し上げます。            


受賞論文の講評

Lukas Berns氏 (発表時 : 東京工業大学, 現所属 : 東北大学)
"Constraints on CP violation and neutrino mass ordering with a joint analysis of accelerator and atmospheric neutrino oscillations"

 本論文は加速器ニュートリノを用いたT2K実験と大気ニュートリノを用いたスーパーカミオカンデ実験のニュートリノデータのJoint Analysisを行い,CP破れ角,ニュートリノ質量順序に,従来よりも強い制限をつけたものである.両解析で共通のニュートリノ相互作用モデルを使用するための拡張を行い,振動確率の計算法,統計解析手法をJoint Analysisのために開発した. パラメーター間にある縮退の解消により感度を向上させ,また系統誤差の相関を考慮しT2K実験,SK大気ニュートリノ実験の整合性を調べ,ニュートリノ振動パラメーターに対して従来と比べより強い制限を与えている.しかし,Joint Analysisの優位性を数値化して明示していないことが惜しまれる.論文は素晴らしくよく書けており,直感的でわかりやすい説明や表現が,文中,Figure Caption,さらにはFigure中に見受けられ,読者の理解を大いに助けている.SK,T2Kのデータを最大限に使い,壮大な仕事をやり遂げたといえる.物理成果の重要性と論文の質の高さを勘案し,本論文が高エネルギー物理学奨励賞に相応しいと判断した.

稲田 知大氏 (発表時 : 東京大学, 現所属 : 清華大学)
"Search for High-Energy Gamma Ray Line emission from Dark Matter annihilation in the Galactic Center"

 本論文は,MAGICチェレンコフ望遠鏡を用いて,暗⿊物質が対消滅する際に発⽣するガンマ線を,発⽣密度が⾼いと想定される天の川銀河中⼼領域からのラインスペクトルに絞って捉えようとする実験研究である.チェレンコフ望遠鏡は高エネルギーガンマ線に感度が高いという利点に加え,MAGIC望遠鏡が北半球にあるにもかかわらず,南天の銀河中心から来る低角度のガンマ線に対しては,横切る大気量が多いために有効体積が増え,むしろ都合がよいことに気づいたことが,申請者のアイデアの素晴らしいところである.このため,バックグラウンドも増えるが,ガンマ線とハドロンとの識別の解析方法を開発し,これまでの観測結果と肩を並べるところまでもっていくことに成功し,TeV領域の質量の暗黒物質に最も強い制限を与える結果を得た.この結果は,暗黒物質がSUSY Winoであるとするモデルなどに強い制限を与えるインパクト・学術的価値の高いものである.ハードウェア面に関しては,申請者は,MAGICの後継として期待される次世代チェレンコフ望遠鏡CTAにおいて,その主要部分である望遠鏡分割鏡の責任者として重要な役目を担っていることが本論文から読み取れる.以上を勘案し,本論文は高エネルギー物理学奨励賞にふさわしいと判断した.


篠原 智史氏 (発表時 : 京都大学, 現所属 : KEK加速器)
"Study of the KL→π0ννDecay at the J-PARC KOTO Experiment"

 本論文の主題は,KOTO 実験の2016-2018 年データを基にした,表題のKLの稀崩壊事象の探索研究である.2015 年データの解析結果で主要であった中性⼦由来のバックグラウンドを抑制するため測定器および解析を改善し,約1.4倍のデータを収集し1.8倍の感度(SES)が期待された.しかし,信号領域を開けたところ3候補が残った.これらの精査から,荷電KとビームハローKLに由来する2つの新たなバックグラウンド源が見つかり,見直したバックグランドの予想値が合計1.22事象となり,それを基に崩壊分岐⽐の上限を求めた.想定外のバックグランドのため,通常の博⼠論⽂の進め方とは異なる記述を強いられたが,論文は複雑な解析をよくまとめており,筆者の中性子由来バックグランドに関する貢献も大きい.他の研究者の貢献を明示した記述も評価できる.結果的に崩壊分岐⽐の上限値を更新するものではないが,綿密な解析があったからこそ新たなバックグランド源を理解できたわけであり,稀崩壊実験の難しさを再認識させ将来への改善策を示したという点では,最終結果によらず価値がある.以上を勘案し,本論文は高エネルギー物理学奨励賞にふさわしいと判断した.


2022年10月14日
第 24 回(2022 年度)高エネルギー物理学奨励賞選考委員会
小林富雄、堺井義秀、隅野行成、瀧田正人、手嶋政廣、徳宿克夫、古川和朗
事務局
野村正

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